無骨と繊細のあいだで──釣りリールに学ぶ、家づくりの奥深さ

きっかけは、スタッフにチヌ釣りへ連れて行ってもらったことでした。
竿を構え、海に向き合う時間、波のリズム、静けさの中にある緊張感。─
気づけば夢中になっていました。
思い返せば、お施主さまの中にも釣り好きの方が多くいらっしゃいます。
お施主様との会話のなかで、魚との駆け引きや道具へのこだわりを語る
その姿から、釣りという趣味の奥深さがじわりと伝わってきました。
そんな影響もあり、私自身も道具をそろえようと釣好きのお施主さんと
一緒に釣具店に足を運びました。ずらりと並んだリールの多さに圧倒され、
どれを選べばいいのかまったく見当がつきません。釣りに詳しいお施主さまが
「最初はこれが扱いやすいですよ」とすすめてくださったリールがなんだか
無骨でかっこいい。
手にしたときの第一印象は、まるで工具のような無骨な金属の塊。
重たく、がっしりとしたその存在感に、職人道具のような力強さを感じました。
ところがじっくりと眺めてみると、その中には精密に組み込まれた部品が
何十個もあり、まるで機械式時計のような繊細さを感じさせます。
ドラグ、スプール、ギア、ベアリング──それぞれの役割を持つ部品が噛み合い、
ひとつの動きを生み出している。その設計と機能の美しさに、私は静かに感動しました。
リールは家づくりにおける“柱”のような存在かもしれません。
どれほど理想的な図面が描かれていても、リールの動きが悪ければ、糸は絡み、
魚は逃げていってしまう。
家もまた、外からは見えない部分こそが、その住み心地を左右します。
壁の中の断熱材や配線の通し方、下地の精度、湿気対策──どれも目には見えな
いけれど、暮らしの快適さを支える大切な仕事です。
私たち工務店の仕事も、そうした“見えない部分の丁寧さ”に支えられていると、
あらためて感じました。
釣りと家づくり。一見、まったく異なる世界のようでいて、どちらも「目に見え
ない部分にこそ、本質が宿る」という点では、深く通じ合っています。
これからまだ見ぬ魚たちとの出会いに胸を膨らませながら、家づくりという仕事
にも、初心を忘れず、丁寧に向き合っていきたいと思います。