「家を建てることを決めるまで。」

「家を建てることにしたんです」
そう口にすると、よく驚かれます。
「一人で?」「今から住宅ローンを?」「これから先のことは大丈夫?」
その反応は、ごく自然なものだと思います。
正直に言えば、私自身も最初から「建てよう」と心が決まっていたわけではありませんでした。
40代後半という年齢。
そして、決して余裕があるとは言えない資金状況。
考えれば考えるほど、不安のほうが大きく見えて、何度も気持ちが揺れました。
それでも今、私は“家を建てる”という道を選び、その第一歩を踏み出しました。
この決断に至るまでの過程が、誰かにとって参考になるかどうかはわかりません。
けれどこれは、私自身の中でじっくりと育ってきた「覚悟」の記録です。
「与えられる場所」から、「選ぶ住まい」へ
これまでの人生で、8回以上の引っ越しを経験してきました。
そのたびに「住む場所」は、どこか“与えられるもの”のように感じていました。
家に対する強い執着もなく、「どこでもなんとかなる」という気持ちで過ごしてきたのだと思います。
しかし、仕事を通してお客様の家づくりに関わるうちに、少しずつ気付き始めました。
住まいは、ただの箱ではなく、「人生の物語が紡がれる場所であり、
日々の暮らしを支える大切な舞台」なのだと。
それでも、「自分も家を建てよう」と思えるようになるには、時間がかかりました。
「まだ早い」のではなく、「もう遅いのかもしれない」と思っていたからです。
「整っていないからこそ、始めてもいい」
40代後半。団地での暮らし。住宅ローン。
こうして言葉にすればするほど、リスクの方が大きく見えるのは当然かもしれません。
それでも私が踏み出せたのは、“未来の不確実さ”よりも、“今の自分の感覚”を信じてみようと思えたからでした。
「この先どうなるかわからないから、やめておこう」ではなく、
「この先どうなるかわからないからこそ、今やってみたいことをやる」。
気持ちは少しずつ、でも確かに変化していきました。
家を建てるということは、すべてが整ってから始めるものではなく、
その家を通して、自分のこれからを整えていく手段でもある――
そう思えるようになったのは、仕事の中でお客様の「人生の節目」に触れてきた経験があったからかもしれません。
小さくても、私にちょうどいい家
私が選んだのは、9坪の小さな家です。
広くなくていい。
贅沢でなくていい。
でも、朝の光が気持ちよく差し込み、
季節の移ろいが感じられて、
静かな夜に心が落ち着く――そんな家にしたいと思いました。
“持たない暮らし”ではなく、
“自分にとって本当に必要なものだけを持つ暮らし”。
それは、物だけでなく、時間や人間関係、
そして自分自身との向き合い方にもつながっている気がします。
家を建てるというのは、ただの建築ではなく、
これからの生き方を、自分の意志で選び取るという大きな決意。
今は、そう感じています。
最後に
決して順調な道のりだったわけではありません。
今も不安がないわけではありません。
でも、「自分の暮らしを、自分の手でつくる」――その一歩を踏み出したことで、
少しずつ、見える景色が変わってきたように感じます。
もし今、家づくりを迷っている誰かがいるのなら、
「整っていないからダメ」ではなく、
「整っていなくても始めていい」と、そっと伝えたい。
これから私は、小さな家を建てて、新しい時間を重ねていきます。
どんな日々になるのか――
その答えは暮らしてみて、ゆっくりと見つけていこうと思います。